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小林一茶を読む71〜80
七番日記
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露の世の露の中にてけんくわ哉
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文化7年
1810 |
48歳 |
鑑賞日
2005 5/27 |
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露の世というのは、露のようにはかないこの世・無常な世の中ということである。 無常の世であると知っているか知らずか、人間はそこで喧嘩などをしている。 「生きてある」ということはこの矛盾を生きていくわけであるが、一茶はこの矛盾をそのままに受け入れて生きた人物だという思いが最近強い。 露の世は露の世ながらさりながら (おらが春) というのもある。 |
七番日記
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白露にまぎれ込んだる我家哉
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文化7年
1810 |
48歳 |
鑑賞日
2005 5/29 |
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感覚の冴えがあって美しい。白露に我家がまぎれこんでいるという景色は豊かであり、ふくよかでさえある。 私の家も私も、露の世(はかない世)であるこの世の中で、その露にまぎれこんでしまったようだ、というふうなネガティブな要素もある。全体的には白露の美しさ、存在の美しさを感受している。 存在そのものを美しいと感受する気持ちと、その中で自我を主張する気持ちの二重性が一茶の特徴ではないか。 |
七番日記
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行秋をぶらりと大の男哉
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文化7年
1810 |
48歳 |
鑑賞日
2005 5/30 |
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大の男は一茶自身であろう。前の句「白露に・・・」もそうであるし、この句もそうであるが、少し自分を皮肉ったところがある、そして両句ともその皮肉を感じさせないほどの大振りな句柄がある。両句とも好きな句であるし、一茶の在り方が表現されていて、一茶の傑作だと言えるだろう。 |
七番日記
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吉原のうしろ見よとやちる木の葉
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文化7年
1810 |
48歳 |
鑑賞日
2005 5/31 |
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吉原は江戸の遊女町である。その吉原のうしろを見よとはどのようなことであろうか。表面では華やかに見える遊女町、でもその裏には人間の貧しさ哀しさが潜んでいる。そういうことを一茶は強烈に意識していたのではなかろうか。弱いものへの共感の目がかんじられて一茶らしい。 |
七番日記
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わらの火のへら\/雪はふりにけり
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文化7年
1810 |
48歳 |
鑑賞日
2005 6/1 |
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「へらへら」というオノマトペに魅かれてとった。 この辺りには次のような雪の句がある はつ雪が降るとや腹の虫が鳴る 「初雪初雪と世人はもてはやすが、こちらは寒くてひもじくて、ただただ初雪がいまいましいだけだ」という一茶の実感である。掲出句はそんな実感をひそませながらも、雪が降る中、わらが燃える火に見入っている時間がある。 |
七番日記
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玉霰夜タカは月に帰るめり
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文化7年
1810 |
48歳 |
鑑賞日
2005 6/2 |
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〈霰〉は[あられ」と読む。夜タカは夜鷹であり、売春婦のことでもある。 〈めり〉は〈・・のようだ、・・らしい〉というような意味 一瞬、かぐや姫のことを思い出したりするのだが、そんな意味でも一茶の売春婦などにたいする共感の気持ちを感じる。弱きもの不運なるものへの共感である。 |
七番日記
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むつましや生れかはらばのべの蝶
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文化8年
1811 |
49歳 |
鑑賞日
2005 6/5 |
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睦みあっている双蝶を見て、生れ代わるなら蝶になりたい、と言っている。あまり重くはなく軽くそう言っている感じがする。見えてくるのは、のんびりとした穏やかな野辺の風景である。 |
七番日記
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蝶とぶやしなのゝのおくの艸履道
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文化8年
1811 |
49歳 |
鑑賞日
2005 6/6 |
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〈艸履〉は[ぞうり]と読む
艸履道という言葉でいかにも鄙びた田舎の道が思い描かれる。そこに蝶が飛んでいるという。懐かしい風景が脳裏を過る。泣きたくなるような懐かしさがある。多分誰でもが持つ古里感があるのだ。 |
七番日記
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赤馬の鼻で吹けり雀の子
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文化8年
1811 |
49歳 |
鑑賞日
2005 6/7 |
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雀の子が地面で遊んでいる。それを煩わしいからあっちへ行けというように赤馬が鼻息で吹いたというのである。あるいは偶然に赤馬の鼻息で雀の子が吹かれたというのである。いずれにしても一茶の、動物達への眼がある。 |
七番日記
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月花や四十九年のむだ歩き
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文化8年
1811 |
49歳 |
鑑賞日
2005 6/8 |
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芸術の道を歩むものはみなこのような気持ちになることがあるはずである。ましてやその道で食っていくことができない者にとってはなおさらの感慨である。しかし逆に、月だ花だとそれらを愛でる気持ちが世の中になかったとしたら、何のために生きているのかということになる。そういうことは一茶も分っている、分っちゃいるけどぼやきたくもなる。正直者、人間一茶である。 |
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