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金子兜太全句集鑑賞1231〜1240( 句集後 693〜702)
句集後 |
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鹿や猪やと起きては喋る鳥帰る
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「海程」の発行
平成27年4月 (2015)96歳 |
鑑賞日
2015年 4/4 |
「鹿や猪やと起きては喋る」というのは分るような気がする。私も近所の農家の人と出会うごとに猪が出たとか猿の被害はどうだとかが話題になるからである。私のところでは鹿の被害についてはあまり身近な話題にはならないが、全国的には鹿の被害は一番根本的で大きな被害であるらしい。それもこれも狼がいなくなってしまったからだという説もあり、私はかなりこの説に魅力を感じている。近頃自然環境のバランスが崩れてきた感があり、それは動物達の世界にも影響を及ぼしている。今のところ鳥達の渡りにまでは及んでいないのが幸いである。 |
句集後 |
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薄氷や和の国人に死を強いるや
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「海程」の発行
平成27年4月 (2015)96歳 |
鑑賞日
2015年 4/5 |
和(わ)、国人(くにびと)とルビ 安倍政権になってからキナ臭くなってきたが、このまま彼等の政策が進行してゆけば必ず死者が出るのだろう。何のための死者かと言えば、それは国を守るためなんかじゃなく、単にアメリカにしっぽを振りたいからのように私には見える。アメリカにしっぽを振りたいがために既に実際後藤健二さんを死なせたと私には見える。テロは良くないに決まっているが、それでも敢て怨みを買って出ることはない。それも単にアメリカにしっぽを振りたいがためだなんて。一昔前に一億総白痴化という言葉があったが、われわれは知らず知らずのうちに一億総アメリカのポチ化してゆくことになるのだろうか。薄氷みたいにぺらぺらとして、掌の上で簡単に融けそうな理由のために死ぬのは嫌だ。 |
句集後 |
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陽のなかの春の枯葉を祝ぎいたり
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「海程」の発行
平成27年4月 (2015)96歳 |
鑑賞日
2015年 4/6 |
九十六歳兜太の境涯句であるといえるだろう。穏やかで柔らかい春の陽射しの中の枯葉を自分自身の現在と重ね合わせている。自分自身の境涯を言祝ぐことが出来るというのは素敵なことだ。私は枯葉とまでは行けないかもしれない病葉かもしれないが、境涯を言祝ぐという態度は見習いたいものである。 |
句集後 |
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小正月猪の親子に黄水仙
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「海程」の発行
平成27年4月 (2015)96歳 |
鑑賞日
2015年 4/7 |
猪(しし)とルビ 小正月は一月十五日であるし、猪は秋の季語であるし、黄水仙は春の季語であるから有季定型の俳人から見れば受け入れがたい句であろうと思う。実際そういう立場から見れば張りぼて感のようなものはある。しかし私などは単に兜太ランドでの事象だと簡単に割りきる。逆にどうだろうか、自分自身のランドを持ち得ている俳人は少ないのではないか。 |
句集後 |
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茫々と雪の吾妻山よ離村つづく
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「海程」の発行
平成27年4月 (2015)96歳 |
鑑賞日
2015年 4/8 |
吾妻山(あづま)とルビ 吾妻山・・・福島・山形県境の火山群の総称。最高峰の西吾妻山(2035メートル)、中吾妻山・東吾妻山・吾妻小富士・一切経山などからなる。中腹には温泉が多く、吾妻十湯とよばれる。(goo辞書) 兜太の吾妻山の句 重厚な雪の吾妻山よ人さすらう 海程2014年1月号 |
句集後 |
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炭焼の人の赭顔も被曝せり
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「海程」の発行
平成27年4月 (2015)96歳 |
鑑賞日
2015年 4/9 |
エデンの園でのアダムとエヴァの神話というのはとても意味深いと最近は特に実感する。要するに人間は神に背いて知識の木の実を食べてしまったということである。その行き着く先が核エネルギーの知識を人間が得てしかもそれを制御するまでの知恵は人間には無いということである。炭焼きも自然からエネルギーを頂く一つの知恵には違いないが、むしろこれは自然の恵みと言える部類の知恵である。核のエネルギーは自然の恵みというよりも自然の呪いあるいは神の呪いとでも言えるようなエネルギーである気がする。 |
句集後 |
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南溟の非業の死者と寒九郎
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「海程」の発行
平成27年4月 (2015)96歳 |
鑑賞日
2015年 4/10 |
先日天皇陛下がパラオを訪問された。その時の羽田空港での言葉の一部が次。 終戦の前年には、これらの地域で激しい戦闘が行われ、幾つもの島で日本軍が玉砕しました。この度訪れるペリリュー島もその一つで、この戦いにおいて日本軍は約一万人、米軍は約千七百人の戦死者を出しています。太平洋に浮かぶ美しい島々で、このような悲しい歴史があったことを、私どもは決して忘れてはならないと思います。 私は天皇主義者ではないが、今の天皇はその心持ちにとても尊敬すべきものがある。安倍さんもその爪の垢でも煎じて飲めばいい。 |
句集後 |
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大雪なり朝の雲ども夢のまにまに
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「海程」の発行
平成27年5月 (2015)96歳 |
鑑賞日
2015年 5/14 |
この冬はまさに大雪だった。山国である私の住んでいるところは雪が無くなった今、その雪の影響で多くの家の屋根が潰れていたりあるいは到るところで崖崩れがあるのが見える。こういう地域は過疎化が進んでいるので雪が降っても屋根の雪下しをする人手が足りないので潰れる家も出てくるわけである。今のところ私はどうにか雪下しをしているが何年か先は出来なくなって私の家の屋根も潰れる可能性はある。おそらくこの大雪も異常気象の一つに過ぎないのかもしれない。近年の異常気象は地球温暖化がその原因の一つだと言われているが、これも人間の欲望が作りだした一つの結果なのかもしれない。人間の欲望という名の沢山の雲が大雪を降らせる。 |
句集後 |
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青春の十五年戦争の狐火
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「海程」の発行
平成27年5月 (2015)96歳 |
鑑賞日
2015年 5/16 |
金子先生については心配している。「海程」の今月号にしても大幅に遅れ気味であったから、それは金子先生の選句の速さが落ちてしまったからなのかあるいはどこか身体の具合が悪いのか、という心配もある。それから昨日の句「大雪なり朝の雲ども夢のまにまに」は2014年5月号に出ていた句であったし、今日のこの句も2014年2・3月号に出ている句である。同じ句を出すということは何かの間違いで偶にはあるかもしれないが、それが続くとなるとやはりかなり心配になる。 |
句集後 |
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沖縄にて
相思樹空に地にしみてひめゆりの声は |
「海程」の発行
平成27年5月 (2015)96歳 |
鑑賞日
2015年 5/18 |
ひめゆり(ひめゆり学徒隊)についてはWikipediaへ。 この句の最後にある「は」で句に余韻が生れ、句が生きてきている。 |
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